- ①40〜60代に多い肩の痛みと可動域制限で、炎症期・拘縮期・回復期の3段階で経過し、自然回復までに1〜3年かかることがある
- ②関節包の炎症・線維化が原因で、MRIや超音波検査で腱板損傷など他の疾患との鑑別が重要
- ③多くは保存療法で改善するが、改善が乏しい場合はサイレントマニピュレーションやハイドロリリースを検討する
① 概要・頻度
「五十肩」は正式には肩関節周囲炎あるいは癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)と呼ばれ、肩関節包の炎症・線維化・拘縮によって肩の痛みと可動域制限をきたす疾患です。
一般人口の約2〜4%に発症するとされ、40〜60代に多く、女性にやや多い傾向があります。[1]この有病率をもとに推計すると、福井県(人口約74万人)では約1万5,000〜3万人、福井市(人口約25万人)では約5,000〜1万人が五十肩に罹患している可能性があります。[2]糖尿病患者では10〜22%と発症頻度が明らかに高く、糖尿病は五十肩の最も強いリスク因子の一つとして知られています。[3]また、反対側の肩にも6〜17%の患者さんで発症することが報告されています。[1]
「五十肩」という名称が広く使われていますが、40代・60代でも発症します。また腱板断裂・石灰性腱炎など別の疾患でも似た症状が出るため、正確な診断が重要です。
② 原因・メカニズム
肩関節を包む関節包に炎症が起き、線維化・拘縮が進むことで痛みと可動域制限が生じます。なぜ炎症が起きるかは完全には解明されていませんが、以下の因子との関連が指摘されています。[1]
- 糖尿病:最も強いリスク因子。血糖コントロールが不良なほど症状が重くなりやすい
- 甲状腺機能異常(甲状腺機能亢進症・低下症)
- 外傷・手術後(二次性)
- 長期の安静・固定
- デュピュイトラン拘縮、心血管疾患との関連も報告されている
特発性(原因が特定できない)の場合も多く、加齢に伴う組織変性が背景にあると考えられています。
③ 病期(3段階の経過)
五十肩は一般的に以下の3段階で経過します。各病期で痛みと可動域制限の程度が異なり、治療方針も変わります。[3]
| 病期 | 別名 | 期間の目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 炎症期 | freezing期 | 3〜9ヶ月 | 痛みが主体。夜間痛が強い。可動域制限はまだ軽度のことが多い |
| 拘縮期 | frozen期 | 4〜12ヶ月 | 痛みは軽減するが、肩の動きが著しく制限される。日常生活動作に支障が出る |
| 回復期 | thawing期 | 12〜48ヶ月 | 徐々に可動域が回復する。ただし完全回復しないこともある |
自然回復まで最長で数年かかることがあります。また、放置しても必ずしも完全に治るわけではないため、適切な時期に治療介入することが重要です。
④ 症状・診断
主な症状
- 肩の痛み(特に夜間痛・安静時痛)
- 肩を上げる・外側にひねる・後ろに回す動作の制限
- 着替え・洗髪・帯を結ぶ・エプロンの紐を後ろで結ぶなどの動作困難
診断・鑑別
五十肩と似た症状をきたす疾患は他にも多くあります。腱板断裂・石灰性腱炎・頚椎疾患などとの鑑別が重要です。
- 単純X線検査:骨折・石灰沈着・関節の変形を確認します。五十肩そのものはX線では映りませんが、他疾患の除外に必要です。
- 超音波検査(エコー検査):腱板の状態や肩峰下滑液包の炎症をリアルタイムで評価できます。外来で迅速に確認できる点が有用です。
- MRI検査:腱板断裂の評価・関節包の変化の確認に有用です。他疾患との鑑別に重要な場合に行います。
当院では院内オープン型AI搭載MRIと超音波検査を組み合わせ、腱板断裂など他の疾患との鑑別を正確に行います。
⑤ 治療方針(保存療法)
多くの患者さんでは保存療法で症状が改善します。病期に応じた治療選択が重要です。[4]
消炎鎮痛薬・NSAIDs
炎症期を中心に痛みのコントロールを行います。内服薬・湿布・外用薬を組み合わせます。
関節内注射・肩峰下注射
ステロイド注射は特に炎症期の疼痛軽減に有効です。当院では超音波ガイド下で正確な部位に注射しています。
理学療法(運動療法・関節可動域訓練)
拘縮期以降は関節の動きを取り戻す運動療法が中心になります。過度な強制的ストレッチはかえって炎症を悪化させることがあるため、病期に合わせた段階的な運動が重要です。[5]
保存療法を3〜6ヶ月継続しても可動域制限・疼痛が改善しない場合は、サイレントマニピュレーションや手術を検討します。
⑥ ハイドロリリース・サイレントマニピュレーション(非観血的授動術)
当院では保存療法・注射・ハイドロリリース・サイレントマニピュレーションで対応します。関節鏡視下手術が必要と判断した場合は、近隣の病院にて手術対応します。
エコーガイド下 烏口上腕靭帯ハイドロリリース
烏口上腕靭帯(coracohumeral ligament:CHL)は、五十肩において肥厚・線維化しやすく、特に外旋制限の主因となる構造物です。超音波で烏口上腕靭帯を描出しながら、靭帯内・靭帯周囲に生理食塩水(または少量の局所麻酔薬)を注入して靭帯を剥離する処置がハイドロリリースです。
外旋可動域の改善および疼痛軽減に有効とする研究が報告されています。[6]また、烏口上腕靭帯の肥厚は超音波で計測可能であり、病態の評価指標としても活用されています。[7]
サイレントマニピュレーションほどの侵襲がなく、外来で実施できます。外旋制限が強い拘縮期の患者さんに対してサイレントマニピュレーションの前段階として、あるいは保存療法の一つとして行うことがあります。
サイレントマニピュレーション
サイレントマニピュレーション(manipulation under anesthesia:MUA)とは、局所麻酔あるいは静脈麻酔下で拘縮した肩関節を医師が徒手で動かし、関節包の癒着を剥がして可動域を改善する治療法です。保存療法で改善が乏しい拘縮期の患者さんに行います。
可動域の著明な改善と疼痛軽減が期待でき、患者満足度は約85%と報告されています。[8]長期成績(23年後)でも可動域・疼痛改善の維持が確認されている報告もあります。[9]
合併症・リスク
サイレントマニピュレーションは一般的に安全な処置ですが、まれに重篤な合併症が報告されています。実施にあたっては医師から十分な説明を受け、リスクを理解したうえで判断することが大切です。[10]
- 骨折(上腕骨骨幹部骨折・関節窩骨折):まれですが最も重篤な合併症です。骨粗鬆症がある方やステロイド長期使用中の方はリスクが高まります。骨折予防に配慮した手技が重要です。
- 腱板損傷・関節唇損傷:MRI・超音波で術前に腱板の状態を評価することが重要です。
- 肩関節脱臼
- 神経損傷(腕神経叢牽引損傷)
骨粗鬆症のある方・長期ステロイド使用中の方は骨折リスクが高まります。事前に骨密度の評価を行い、リスクを十分ご説明したうえで実施を判断します。
⑦ 手術(関節鏡視下関節包切離術)
保存療法・ハイドロリリース・サイレントマニピュレーションで改善が得られなかったり、骨折が危惧される方には、全身麻酔下に関節鏡を用いた手術を行います。関節鏡で肩関節内を直視しながら、癒着・拘縮した関節包を切開・切離していく方法です。
関節鏡視下関節包切離術は可動域の改善において最も効果が高い治療法の一つとして位置づけられています。[11]サイレントマニピュレーションと比較した報告でも、可動域・疼痛・機能面で同等以上の成績が確認されています。[12]
糖尿病を合併している患者さんでは、術後に疼痛・可動域・機能面で特発性の患者さんと比べて成績が劣る傾向が報告されています。術前に基礎疾患のコントロール状況を確認することが重要です。[13]
当院での手術方針
- 当院では関節鏡視下手術は行っていません
- 手術が必要と判断した場合は、近隣の病院へご紹介します
⑧ 当院での対応
当院での対応
- 身体所見・院内オープン型AI搭載MRI・超音波検査で腱板断裂など他疾患との鑑別を正確に行う
- 病期に合わせた段階的な治療(消炎鎮痛薬・注射・理学療法)を行う
- 保存療法で改善が乏しい場合はハイドロリリース・サイレントマニピュレーションを検討・実施(リスク説明を十分に行ったうえで)
- 関節鏡視下手術が必要な場合は近隣の病院へご紹介
- 糖尿病など基礎疾患がある場合は主治医との連携を行う
- 予約不要・当日受診可
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参考文献
- Dyer BP, et al. Diabetes as a risk factor for the onset of frozen shoulder: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open Diabetes Res Care. 2023;11(1):e003302. doi: 10.1136/bmjdrc-2022-003302 PubMed
- 総務省自治行政局. 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和7年1月1日現在). 総務省ホームページ. 福井県 742,934人・福井市 252,666人をもとに有病率2〜4%で推計。
- Juel NG, et al. Very High Prevalence of Frozen Shoulder in Patients With Type 1 Diabetes of ≥45 Years' Duration: The Dialong Shoulder Study. Arch Phys Med Rehabil. 2017;98(8):1551-1559. doi: 10.1016/j.apmr.2017.01.020 PubMed
- Berner JE, et al. Pharmacological interventions for early-stage frozen shoulder: a systematic review and network meta-analysis. Rheumatology (Oxford). 2024;63(12):3221-3233. doi: 10.1093/rheumatology/keae176 PubMed
- Hill JL. Evidence for Combining Conservative Treatments for Adhesive Capsulitis. Ochsner J. 2024;24(1):56-63. doi: 10.31486/toj.23.0128 PubMed
- Kimura H, et al. Effectiveness of ultrasound-guided fascia hydrorelease on the coracohumeral ligament in patients with global limitation of the shoulder range of motion: a pilot study. Sci Rep. 2022;12(1):19782. doi: 10.1038/s41598-022-23362-y PubMed
- Wu CH, et al. Elasticity of the Coracohumeral Ligament in Patients with Adhesive Capsulitis of the Shoulder. Radiology. 2016;278(2):458-464. doi: 10.1148/radiol.2015150888 PubMed
- Duits EHA, et al. Manipulation under anaesthesia for frozen shoulders: outdated technique or well-established quick fix? Shoulder Elbow. 2019;11(4):271-281. doi: 10.1177/1758573218755744 PubMed
- Vastamäki H, et al. Motion and Pain Relief Remain 23 Years After Manipulation Under Anesthesia for Frozen Shoulder. Clin Orthop Relat Res. 2013;471(4):1245-1250. doi: 10.1007/s11999-012-2724-8 PubMed
- Tanaka S, et al. Clinical Results and Complications of Shoulder Manipulation under Ultrasound-Guided Cervical Nerve Root Block for Frozen Shoulder. Pain Res Manag. 2019;2019:4867904. doi: 10.1155/2019/4867904 PubMed
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